STORY
ひな薔薇綺譚の
物語
PROLOGUEプロローグ
- 気が付くと私はクマに抱かれていました。
- 温かいと思っていたのは、
- 彼女の毛皮のせいだったのです。
- 大きな躰と漆黒の瞳、
- 金色の太陽のように微笑みながら、
- 彼女は言いました。
- いっしょに暮らしましょう。
- 彼女はあまいハチミツの匂い、
- 私を待っていてくれる
- お日様みたいな
- たったひとつの大きな手。
- 目覚めた花みたいにほほえみながら、
- 心の魔法はまだはじまったばかりです。
第二章 リバティハウス
第一章 ひな薔薇
第二章
リバティハウス
第3話ありえる愛
イラスト ♢ いとりょ
真夜中、ひな薔薇は目覚めた。
目覚めてからもまだ眠っているような、
世界がガラスの向こう側にあるような、
透明な空気感に包まれている。
天蓋が碧く揺れている。
なぜ私は逃げ出しもせずここにいるのだろう。
ひな薔薇はドレスを脱いで、
腕の中の懐かしいワンピースを手に取り、身に着ける。
美しい服はすっかりクローゼットに仕舞いこんだ。
そうするとそれは完全に自分のものになったような気がした。
ひな薔薇はそんな宝物を持ったことがなかった。
今までひな薔薇の宝物は
すべてどうしても必要なものばかりだった。
必要のない美しいものを
そういえば愛していたかもしれないと
いつか思い出すかもしれないことはありえる愛
ここはリバティハウス
ひな薔薇はゆるやかな愛の迷宮に陥る
動物たちの影
彼女たちの天国的な美しさ
地獄的な独りよがり
善意もなく、悪意もない。
深窓の麗しき物の怪に魅せられた自分を懺悔し、
彼女たちの悪戯から逃亡する?
否、目覚めてもまだここにいる奇跡を選ぶ。
ひな薔薇の気持ちは最初から決まっている。
この風変りな場所で過ごすこと、
ひな薔薇は何を縫いはじめるだろう、
自分でも知らないうちに。
ひな薔薇はありえる愛だけ知っている。